食欲不振の症例(気鬱)

食欲不振(気鬱)

食欲不振についての前回の記事はこちら

前回のブログでは食欲不振は単純な虚証のものの他に、実証による症例を見てきました。今回は単純な脾胃(消化器系)の問題だけではないタイプの食欲不振を見ていきます。

目次

食欲不振の症例(肝鬱)

朱丹渓は少婦を治した。年は十九,思うままにならないことがあり,膈満となり,何ヶ月も食べず,疲労困憊がひどく,起きられない。10~12時に発熱して顔は赤く,18~20時には治る。夜間は小便が頻回あり量は少なく,月経は量が極めて少なく,脈は沈渋短小だが,指に力を入れても消えない。 これは気が胃口に鬱し,内に瘀血あり。だが病いが長引くため,元気はすでに虚し,中宮には無理に食べさせたため,痰鬱がある。治法としては補瀉兼施が宜しい。 参、朮各二銭,茯苓、橘皮各一銭,紅花六分を,食前に煎服させる。 少ししてから,神祐丸を軽く粉にして、牽牛を抜いた細末を,芝麻大にして15丸をツバで飲ませ,一昼夜に二薬を四服させた。次の日には食が進み,三日して熱は退き愈えた。

村上正剛. 王孟英医案(翻訳)

解題

朱丹渓について

朱丹渓は1282年〜1358年まで生きた医家です。金元四大医家のうちの一人と言われており、現在でも使われている滋陰降火湯をつくった人としても知られています。彼はそれまで主流だった清熱という治療法の問題点を指摘し、陰液を補うことで熱証を改善する滋陰降火という治療法を生み出しました。彼の他の症例を下記に記載しておきます。

解題

思春期の女子の食欲不振についての症例です。気持ちが思い詰めたために、食欲不振・気力減退などが見られる症状(膈満)がみられます。「10~12時に発熱して顔は赤く,18~20時には治る」というのは、専門的には日晡潮熱というものの類で、胃や陽明経に熱がこもっていることが示唆されます。また脈は一見弱いようで力はある。これは虚証(たんなる体力低下)ではないということであろう。これらの症状を勘案し朱丹渓は胃の気滞と血瘀により、正気(体力)が奪われていると判断した。体力(正気)が低下しているため、体力をつける薬と胃の気滞をさばく薬を同時に処方し、経過が良くなってきた段階で、胃の気滞をさばくような処方のみに切り替えて治療を終えています。

用語解説

膈満

膈とは横隔膜あたりのこと、満はガスが溜まったような張り感をいいます。似た言葉として張満や痞満などがあります。張満や痞満は腹部に対して使われることが多いので、ここではそれよりやや上の胸からみぞおちあたりの詰まった感覚を説明したいものと考えられます。一部で虚証もありますが、気滞・瘀血・痰飲・熱邪などの実証に多く見られる所見です。

日晡潮熱(にっぽちょうねつ)

時間によって発熱するものを潮熱といいます。特に午後にかけて発熱やのぼせが強くなるものを日晡潮熱・午後潮熱と呼びます。多くは裏証によるものとされおり、虚実ともによくみられます。実証は感染症などの際に特に多く見られ、虚証は過労などによって起こることが多いとされています。日晡潮熱は熱証で津液や気血の損傷を容易に引き起こし難しい症例に変化するため、経過には十分注意を払う必要があります。

まとめ

この症例では単なる実証の経過が長かったために体力の低下を引き起こしているのが一つのポイントでしょう。所見では実証が多く、単なる瀉法でしっかりと治療することも可能です。しかし、患者が多感な年頃であることも考慮して補法と瀉法を並行させるところに朱丹渓の湯液家としての技量が垣間見えます。

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