瘀血は黒い血なのか〜中医学から考える〜

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瘀血=黒い血の誤解

先日、SNSで生理時の血の色が黒いと瘀血体質だから気を付けてねという漢方アカウントのポストに、産婦人科の先生が黒い血はただの静脈血であり意味がないという旨の批判のコメントを出されて話題を呼びました。たしかに『中医診断学』でも、問診の項目で「婦人の月経について生理の出血が紫暗で血塊があり、腹痛を伴うものは寒凝血瘀を疑う1」とあります。寒凝血瘀は瘀血の一種で、冷えによって引き起こされる瘀血の一種です。月経時にお腹を温めると腹痛が少し軽くになる方が多いのは、冷えが軽減されそれに伴い瘀血が改善されるためとだ中医学では考えています。話がやや脱線しました。では生理時の黒っぽい血は瘀血と考えてよいのでしょうか?

血≠血液

瘀血の話に入る前に、そもそも中医学においていう血と、現代医学で語られる血液は必ずしもイコールではありません。ではこの血は現代医学でいうところの血液bloodと同じなのかというとそういう訳ではないようです。このあたりは江戸期の翻訳家の良心と探究心が引き起こした混乱なのですが、また機会があれば書きましょう。

さて中医学における血は、大きな役割として滋潤作用というものがあります。読んで字の如く全身を滋養し潤す作用です。この血が四肢で不足すれば手足のしびれに、皮膚で不足すれば乾燥肌に、頭で不足すれば目眩などを引き起こします。また血は精神活動の栄養源となるので、血に異常があると不安感や焦燥感、不眠や情緒の乱れなどが起こることが知られています。現代で言う血液とリンパの一部までを包括した概念+αといえるかもしれません。

瘀血は血の停滞だけではない

さて生理的な血が血液bloodとすこし違うことを踏まえたうえで瘀血の話に戻りましょう。そもそも瘀血の「瘀」には、「たまった血(積血)2」という意味がありこれが中医学において瘀血の語源と言われています。瘀血には大きく分けて5つの意味があると、中医学では考えられています。

停滞

中医学には流れるものは良いものという発想があります。つまり何かの理由で流れが止まってしまうと病気や症状が出てくるというわけです。人体に流れているとされるものはいくつかあるのですが、このうち血が何らかの理由で全身を流れることができなくなる(停滞する)と瘀血という呼び名に変わります。わかりやすい例ですと、下肢の静脈瘤などがあります。

出血

血は脈中を流れているとされるため、脈中を離れると出血します。みなさんも怪我したときに出血とともに、赤く腫れた経験があるかと思いますがあの赤は血の色です。つまり出血した場所には血が通常時よりも過剰に集まってくるため、停滞を引き起こします。これも中医学では瘀血と考えます。出血はなにも手足だけでなく、生理時の出血や目の出血・脳出血などもこの範疇に入ります。

汚染

汚染というのはなにもウイルスだけではありません。高脂血症など血液の粘度が上がったものは瘀血として考えます。これも流れが悪くなるという意味では停滞の応用ですね。

凝固性の亢進

このあたりになると完全に血液の作用ですが、血液の凝固性の亢進(血が固まりやすくなる)ことも瘀血であると感がています。たとえば慢性の心臓疾患に使われる冠心II号方という漢方薬は、瘀血を改善する薬(活血薬)としても有名です。

その他

東洋医学には長い歴史があるため、この範疇に入らないタイプの瘀血も存在します。たとえば一種の癲癇や膠原病などもこの範疇に入ります。

逆説的な瘀血

これは誤解している方が少なくありませんが、月経で血が黒くなった、出血したときに血が黒かった、下肢の静脈瘤があるからと言ってかならずしも瘀血になるわけではありません症状やお病気・身体で困ったことが、瘀血と呼べるような特徴(停滞・出血・汚染・凝固性の亢進・その他)を改善すれば、症状も改善できると判断したときに初めて瘀血と呼ばれます。これは東洋医学的な見立ては、様々な情報を吟味して総合的に判断するという大原則があるからです。これを専門的には四診合算(ししんがっさん)といいます。古来から一つの情報のみで身体の状態を判断するのは、誤治が多いとして戒められています。

また似た話ですが漢方の世界では活血薬(瘀血を改善する生薬)を使えるものを瘀血として捉えています。循環論法ではありますが、瘀血を現代の用語できちんと定義できないために便宜的にそう考えているという現状があります。

おわりに

瘀血の話はよくSNSで話題になります。実際1980年代、似たような混乱が起こったため瘀血をきちんと定義しようという流れが中国で起こりますが、文化的にも違う内容をうまく現代で翻訳できずに中途半端な内容のまま研究が終わっています。日本でも瘀血スコアなるものを作ろうと研究チームが現れては、断念するということが繰り返されています。では瘀血などないのかといえばそれは疑問です。瘀血という考え方を下に作られた漢方薬は現代でもしっかりと効くこと証明されていますし、鍼灸治療においても瘀血の考え方は広く使われています。どちらかというと臨床研究上の制約がうまく突破できないために、まだ効果が証明できないという言い方が正しいかもしれません。昨今の技術の進歩があれば、その効果がわかる日も近いかもしれません。

参考文献

  1. 経色是指月経的顔色、正常月経色正紅。・・・経色紫暗、夾有血塊、兼小腹冷痛、属寒凝血瘀。 ↩︎
  2. 「瘀、積血也。」『説文解字』 ↩︎
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