機能性ディスペプシアの薬が効かない・効きにくい人の特徴って?
「胃カメラでは異常なし。でも薬を飲んでも楽にならない」
そんな経験をしている方は少なくありません。機能性ディスペプシア(FD)は、検査で異常が見つからないにもかかわらず、胃もたれ・みぞおちの痛み・早期満腹感などの症状が続く状態です。処方される薬(胃酸を抑える薬、消化管の動きを整える薬、抗不安薬など)で楽になる方もいます。一方で、「飲んでも変わらない」「一時的によくなってもすぐ戻る」という方も多くいます。機能性ディスペプシアが起こる理由から見ると三つ原因が考えられます。
機能性ディスペプシアはなぜ起きるのか
近年の研究では、機能性ディスペプシア(FD)は単純な「胃の機能の問題」ではなく、3つの要素が複雑に絡み合って起きる状態だということがわかってきています。
① 腸内細菌叢の乱れ
十二指腸の粘膜に住む細菌のバランスが乱れていることが、FD患者さんで確認されています。この乱れは胃の動きや症状の重さと関係しており、食事の影響だけでは説明できないとされています。
② 免疫の過剰反応(十二指腸の微小炎症)
FDでは、十二指腸の粘膜で免疫細胞(好酸球・マスト細胞)が増加し、肉眼ではわからない程度の軽度の炎症が起きていることがあります。この炎症は胃カメラでは映らない程度のものですが、腸の粘膜バリアを傷つけ、神経を刺激することで、痛みや不快感につながると考えられています。
③ 脳と腸の連絡の乱れ(脳腸相関の障害)
脳と腸は互いに影響を与え合っています。ストレスがかかると腸の粘膜バリアが弱まり、免疫系や腸内細菌にも影響します。逆に腸の状態が悪化すると、神経伝達物質のバランスが変わり、気分や感情にも影響が出ます。機能性ディスペプシアの患者さんの約半数は「先にストレスがあって、その後に胃の症状が出た」と言い、残りの半数は「先に胃の不調があって、その後に気分の落ち込みが出た」と言います。どちらが先かではなく、双方向に影響し合っているのが機能性ディスペプシアの特徴です。
薬が効きにくい人の特徴
上記の3つの要素をふまえると、以下のような状態にある方は、胃薬だけでは改善しにくい傾向があります。
- 慢性的なストレスが続いている 仕事・人間関係・生活環境など、原因が取り除かれていない状態では、脳腸相関の乱れが続きやすくなります
- 複数の症状が混在している 胃もたれと痛みと早期満腹感が同時にある場合、複数のメカニズムが関わっている可能性があります
- 胃酸を抑える薬だけを続けている 胃酸分泌の問題だけでなく、粘膜の炎症や神経の過敏が主な原因である場合、胃酸抑制薬の効果は限定的になります
- 症状が食事・天気・疲労・感情と連動して変動する 自律神経や免疫系が関与しているサインである可能性があります
- 胃腸以外の不調も重なっている 睡眠の乱れ、疲れやすさ、気分の波など、胃腸以外にも症状がある場合は、全身的な調節機能の乱れが背景にあることがあります
東洋医学(中医学)からみると
中医学では、機能性ディスペプシアに相当する状態を「痞満(ひまん)」「胃痛」「食欲不振」などとして捉え、症状のパターンや体質によって原因を分類します。よく見られるパターンとして以下があります。
脾胃虚弱(ひいきょじゃく)
消化吸収を担う「脾」と「胃」のはたらきが弱っている状態。食後の胃もたれ、倦怠感、食欲不振が重なる方に多く見られます。慢性的な疲労や食生活の乱れが背景にあることが多いです。
肝気犯胃(かんきはんい)
感情・ストレスのコントロールを担う「肝」が乱れ、胃に影響している状態。ストレスや感情の波と連動して症状が悪化する方、ため息が多い方、脇腹の張り感がある方に見られます。
胃陰不足(いいんふそく)
胃を潤す力が不足している状態。空腹感はあるのに食べられない、みぞおちのじりじりした感覚、口の乾きなどが特徴です。
脾腎陽虚(ひじんようきょ)
消化を担う「脾」と下肢や泌尿器・生殖器を主る「腎」の陽気がともに不足している状態。冷えが強く、食後のもたれや下痢傾向、疲労感・腰のだるさが重なる方に見られます。慢性化したFDで、体力の低下や冷えが顕著な場合にこのパターンが関与していることがあります。
西洋医学的な「3つのメカニズム」と中医学の「弁証」は、別々のものではなく、見ている角度が違うだけです。たとえば「肝気犯胃」は脳腸相関の乱れに、「脾胃虚弱」は腸内環境や免疫の低下に、それぞれ重なる部分があります。中医学的なアプローチでは、この弁証を軸として、お体の状態合わせて鍼灸施術を行います。胃だけを診るのではなく、ストレス・睡眠・体質・生活習慣も含めて総合的に施術を進めて行きます。
まとめ
機能性ディスペプシア(FD)で薬が効きにくい背景には、腸内細菌・免疫・脳腸相関という複合的なメカニズムが関わっていることがあります。「検査では異常なし」「薬を飲んでも変わらない」という状態が続いている場合、アプローチを変えることで改善の糸口が見つかることがあります。当院では、中医学の弁証をもとに、鍼灸によるアプローチを行っています。FDでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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