傷寒論を鍼灸師の目線で解説しております。
前回のおさらいはこちら
さてさて今日も傷寒論解説です。
桂枝湯にはいろんなバリエーションがありますが、ここでは喘息持ちの方へ桂枝湯を使う場合が書かれています。現在の症状としての「桂枝湯証」と、持病としての「喘息」を分けて考えて処方していることが、臨床家として上手いなぁとしみじみ思うのです。
実際の臨床でも体質や持病(既往歴)と今の症状(現病歴)を両方を考慮することで、より一層今の症状に対して結果を残すことが出来るのではないでしょうか?
桂枝加厚朴杏子湯
喘家、作桂枝湯、加厚朴、杏子佳。(18)
『傷寒論』より
桂枝加厚朴杏子湯という名前は傷寒論の原文にはない。慣習的にこの名前が使われている。桂枝湯を使うべき症状に加えて、体質的に「喘」という症状を持つ人にこの処方が使われる。厚朴と杏子という二味を加えただけのシンプルな処方だけれども、患者さんに合わせて術を施すという気概が見える一文でもある。
「喘」という症状
喘というワードを見ると、喘息をイメージされる方が多いのではないかと思う。辞典で引いてみると以下の通り。
喘証
漢方用語大辞典より抜粋
単に喘といい、喘逆・喘促などともいう。一般には気喘と称されている。呼吸促迫を特徴とする一種の病症をさし、・・・気喘の発作時には咳嗽をともなう場合が多い。
呼吸が促迫というのは、英語ではrespiration increase と表記されて、直訳すると「増加した呼吸」という意味になります。呼吸の増加には二つの要素しかありません。呼吸する回数(呼吸数)と呼吸する深さ(換気量)です。この二つが共に増える場合は呼吸促迫といえるでしょう。
杏子と厚朴
杏子は杏仁と呼ばれたりすることもあります。いわゆる杏仁豆腐の原材料です。伝統的に咳を止める作用(止咳平喘息)が知られています。現代でも杏仁にはアミグダリンという成分が入っており、体内で青酸に変わります。少量では呼吸中枢を抑制し、咳止めの効果があるとされています。また杏子は胃で分泌されるペプシンの機能を阻害するので、下剤のような効果もあるとされています。
厚朴は「腹満」という腹が張ってくるような症状に使うことが多く。伝統的にも健胃作用があると知られている。現代の研究でも、厚朴に含まれるマグノロールは胃酸分泌抑制・ストレス潰瘍抑制などの作用があることが知られています。また厚朴には、喘息で問題になる気管支の拡張を抑制する効果もあります。
どちらも伝統的に毒のあるもの(下品)として扱われていたので、常用するのはあまりよろしくありません。ですがその分症状にきちんとはまれば、薬効も高いのではと思います。
鍼灸師が配穴を考える
今回も近代の名医・承淡安先生の処方からみてみましょう。
風府、風池、頭維、合谷、外関、列欠、足三里、天突、豊隆
承淡案針灸選集より抜粋
風府、風池、頭維、合谷、外関の5穴は
承淡安先生の桂枝湯における処方。
喘家に対しては、局所取穴での天突。
遠隔取穴での列欠があげられています。
豊隆は喘息の時に伴う痰を取り除くために使われています。
『医学入門』の〈治病要穴〉という章で
「豊隆は、痰の目眩、嘔吐、哮喘を主る」
という一節があるのでここを応用していると考えられます。
面白味には欠けますが、まさに王道といえるツボの選び方ではないでしょうか?気管支が狭くなることを考えて天突を局所で加えるところあたりは、西洋医学を学びながら東洋医学を解釈した承淡安先生らしい部分かもしれません。ただ遠隔で取穴されていた列欠や豊隆などは、まだまだ研究の余地がある部分ではないでしょうか。
コメント