傷寒論20条(桂枝湯兼証3)

トリカブト wikipediaより抜粋

傷寒論という漢方のバイブルを鍼灸師目線で解説しております。
前回のおさらいはこちら


さて、桂枝湯の兼証も三つ目となりました。
今回、登場するのは「附子」という生薬。トリカブトという方が、馴染みのある名前かもしれません。毒草として非常に有名なトリカブトですが、適切に調理して微量用いることで、お薬になることが伝統的に知られています。毒性が強いというのは、逆に言えば上手く使えば薬効も凄まじいといえるので、ある種の起死回生のお薬として古来より重宝されてきました。
ちなみに学校の教科書でお馴染み「あおげ〜あおげ〜あおぐぞ、あおぐぞ!」のフレーズで有名な狂言の『附子(ブス)』は、今回紹介する附子のことだったりします(狂言では桶の中身が砂糖でしたが・・・)。


目次

桂枝加附子湯

トリカブト wikipediaより抜粋

トリカブト wikipediaより抜粋

太陽病、発汗、遂漏不止、其人悪風、小便難、四肢微急、難以屈伸者、桂枝加附子湯主之。(20)


『傷寒論』より

多量の発汗がキーワード

太陽病であるならば、汗をかかせれば治るのだけれども、ここでは汗がダラダラと流れているパターン。あまりにもダラダラと汗が流れるので「漏れて止まず」という表現をしています。汗があまりにも流れるので、体内の水分量は減り、小便は出にくくなります(小便難)。

汗にはどんな役割があるのか?

現代的に考えると、発汗の重要な作用は「体温の調節」と考えられています。例えば、運動して体温が上昇したのを汗で発散する、といった具合です。伝統的にも汗には体温調節作用があると言われます。汗を調節する作用を「衛気(エキ)」、体温調整作用はカラダを温める部分に注目して「温煦(オンク)作用」といわれてきました。

それでは少し話を戻しましょう。
汗がダラダラと止まらないというのは、体温調節が出来ていない病態であると考えられます。このため、身体は気化熱で冷やされて、体温が下がって行きます。筋肉・特に関節部の運動には血液や水分が欠かせません。体が冷えきって血流量が少なくなると、関節が動かしにくい・筋肉が引きつるといった現象が起こりえます。これが「四肢微急、難以屈伸」です。

附子には身体を温める作用がある

附子には強力な温める効果(温煦作用)があり、(東洋医学的な)腎に作用して体を温め、発汗の調節を回復させる(衛気を鼓舞する)効果があります。現代的にも、強心作用・抹消血管の拡張作用などがあり、強烈に身体の体温を上昇させることがわかっています。

汗がダラダラと流れて止まらない場合、体は冷えて行くので附子を使って急速に体の内側から体温の低下を止めようという意図があります。さらに桂枝湯と合わせて用いることで、汗をしっかりと止めて、無駄な体温低下を防ごうという狙いがあるのです。
***専門的には発汗の量を考えれば、小便の量は少なくなるのが当然なので、この症状を腎虚と特定するには無理があります。あくまでも、身体の冷えは衛気虚から来るものでなければならず、衛気(衛陽)を鼓舞する意味で附子を使っているというのが妥当な見解でしょう***

こんな人には桂枝加附子湯

桂枝加附子湯は非常に歴史のあるお薬ですが、現代でも非常に応用範囲の広いお薬でもあります。実際に現代でも桂枝加附子湯が使われています。具体的には頭痛・更年期障害・尿もれ・慢性の鼻炎などに使われています。ただしどの場合も、発汗が多い人に対して効果が高いようです。

 

鍼灸師が桂枝加附子湯を応用すると

当院は鍼灸院ですので、漢方の処方を鍼灸のツボ選びにまで落とし込んでみようと思います(臨床では、患者さんの状態に合わせてツボの場所を微調整することで効果を発揮します。勝手なツボ押しはお気をつけください。
ここでは近代鍼灸の名医・承淡安先生の処方を見てみましょう。

神闕・関元・陰郄(全て灸を用いる)
頭痛があるものは風池、風府、合谷、頭維から1,2穴とって刺鍼する。

承淡安針灸選集より

お灸を用いるのは、身体を温めたいという意図が強いからです。
神闕というのは、要はおへその真ん中のことです。
ここにお塩を乗せて行う塩灸というのが有名です。
とっても体が温まって気持ちいいんですよね。

特におへそ〜下腹部は、身体を芯から温める効果が強く、
冷えが強い人は下腹部から温めると非常に効果的です。

大阪医療専門学校のHPより抜粋

大阪医療専門学校のHPより抜粋

冷えをとるという意味では、お灸はとても良い方法だと思います。
小さい点でしっかりと効かせることで、
身体が芯から温まった」という感覚が得られます。
お風呂や温泉よりも深くじっくりと温もる感覚があります。
おそるべしお灸ですね。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次