傷寒論21条/22条(動悸と芍薬)

サボテンの花

前回のおさらいはこちら
この条文では、下痢などで体力が落ちた時に、動悸などが起こる身体の変化について記述されている。桂枝湯といえば、風邪薬というイメージがあるが、配合の中身を少し変化させることで多様な効果を引き出すことが出来るのは漢方ならびに東洋医学の魅了かもしれない。

目次

桂枝去芍薬湯と桂枝去芍薬加附子湯

サボテンの花

サボテンの花

・太陽病、下之後、脈促胸満者、桂枝去芍薬湯主之(21)
・若微寒者、桂枝去芍薬加附子湯主之(22)


『傷寒論』より

下痢があるという意味

下痢(下之後)などで腹部の調子が悪いときに動悸(脈促)が起ったパターンが21条の条文である。下痢は胃家が疲れて飲食物を吸収できない状態であろう。東洋医学的には胃が疲れているということは、全身の栄養状態が良くない状態ともいえる。つまりその状態で太陽病(外邪)にかかると、通常の施術や処方では回復しにくい状態があるということである。

動悸が鑑別ポイント

21条の条文では、「動悸(脈促)」が一つの鑑別ポイントになる。
胃家の衰え・疲労によって、表にかかるはずの太陽病が一段深く侵入する。表は五臓で言う肺と繋がる部分なので、この部分(胸部)に症状があらわれていると考えられる。専門的には、「邪が表より胸に入り胸陽の邪を除く能力が低下する」という。

さらに悪化すると寒気を感じる

22条は21条がさらに悪化・発展したものである。前条[21条]の動悸(脈促)に加えて、若干の寒気を感じる状態が22条である。東洋医学的に全身を温める作用(温煦作用)は、胸部より全身に広がっていくと考えられているので、21条で胸部の陽気(胸陽)がさらに衰えることで、冷えを感じるのだろう。

21条と22条の処方の違いは、附子の有無である。附子は腎に作用して温煦作用を鼓舞する作用が非常に強いため、胸陽の不足を下焦にある腎から鼓舞するという意味合いが強い。胸中の陽気を何とかして高めていこうと外から下からアプローチする張仲景の意図が見える。

二つの条文に共通する「去芍薬」

21条にある処方は桂枝去芍薬湯、22条にあるのは桂枝去芍薬加附子湯。
どちらも桂枝から芍薬を抜いた処方である。芍薬を見てみましょう。
ちなみにwikiはこちら(なかなか綺麗な花ですよ)

芍薬(白芍)
【性味】苦・酸、微寒
【帰経】肝・脾
【効能】養血、和陰、平肝
現代では中枢性の疼痛や脊髄反射の抑制作用が分かっている


『新編・中医学基礎編』より抜粋

芍薬は、収斂作用といって薬効を身体の内側へ作用させる効果があることが伝統的に知られています。この芍薬を取り除くことで、漢方薬の効果をより表層へ効かすことが出来ると、著者の張仲景は考えていました。また芍薬が入っているお薬で有名なものに、芍薬甘草湯があります。これは芍薬の収斂作用を応用して、こむら返りなどに良く使われる処方です。そのため、桂枝去芍薬湯では桂枝湯のような症状があり、こむら返りのような痙攣がない患者さんに現代では応用されています。

桂枝去芍薬湯の応用

1900年代中盤に活躍された老中医・劉渡舟は、胸部の不快感(胸悶)動悸(心悸)咳逆などの症状に応用し、冷えがある患者さんには附子を加えることで良好な治療成績を残しています。この中でも特に、心臓血管系の患者さんで、夜間の症状が比較的重い人(陽虚陰盛)に関しては、非常に効果が高かったようです。(傷寒論註解より)

またそのほかにも、吐き気、浮腫、咳嗽、咳喘息、肋間神経痛などに応用され、現代医学の領域では胃下垂や気管支喘息を伴うような、肺・心臓疾患を持つ方への効果が期待されています。

鍼灸師が桂枝去芍薬湯を考えると・・・

【針法】
桂枝湯証があるもの:風府・風池・合谷・外関
胸満感があるもの:内関・上脘を加える
寒気がするもの:大椎・神闕を加える
風府・風池・合谷・外関に内関と上脘を加えることで、心陽(胸陽)を鼓舞して営衛を整え、大椎と神闕を加えることで経絡を通じて全身を温める効果を得ることが出来る。


『承淡安鍼灸選集』より抜粋

ここに挙げたのは一例ですが、老中医の承淡安先生の処方を見て見ましょう。
構成としては、桂枝湯の処方に加味するという発想は傷寒論と同じです。胸満感に対して、瀉法的な要素の強い内関を加えることで一旦、胸を透かすように配穴されている部分は非常に興味深いですね。

上脘をあげているところも注目です。胃の募穴である中脘の一寸上にあるツボが上脘ですが、胃にある帰結は、ここから肺経へと流れていきます。お腹にある経穴ですが、胸部へ効かせようという意図を感じます。また上脘はうまく使うことで、上半身の症状に効果を発揮することも知られています。一寸の差で施術の効果に差が生じるのが、鍼灸の面白いところと言えるかもしれません。

神闕はいわゆるお臍の部分。ここは塩灸などで温めると非常に効果的ですね。どうやら承淡安先生は附子の効能と神闕を関連づけている部分があるのかもしれません。
大椎は第七頚の棘突起下にある経穴です。手足の陽経が全て交わるというスーパースターのようなツボです。ちょうどこのうらに甲状腺もあるので、新陳代謝などを通して体温の調整機能があるのだろうと思われる部分です。


まとめ

今日は桂枝湯の応用、桂枝去芍薬湯の処方をみてみました。桂枝湯類は風邪薬というイメージがかなり払われてきたなという印象ですが、いかがでしょうか?一人の鍼灸師としては、陽経の取穴から陰経の取穴が増え具合や、ツボの選び方などでより身体の内側(内臓レベルへ)鍼灸施術を効かせることが出来るという学びが大きかったです。承淡安先生の配穴もオーソドックスですが、よく練られていて流石の一言につきます。それでは!

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