傷寒論32条・33条(下痢・吐き気の症例)

 こちらは専門的な内容の記事です。

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原文と意訳

太陽与陽明合病者、必自下利、葛根湯主之。
太陽与陽明合病、不下利、但嘔者、葛根加半夏湯主之。
葛根加半夏湯方
葛根(四両) 麻黄(三両去節) 甘草(二両炙) 芍藥(二両) 桂枝(二両去皮) 生薑(二両切) 半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘)
右八味、以水一斗、先煮葛根、麻黄、減二升、去白沫、内諸薬、煮取三升、去滓、温服一升。覆取微似汗。

『傷寒論』32条・33条

意訳:
太陽病と陽明病の合病の場合、必ず下痢を伴うので葛根湯を用いる。
太陽病と陽明病の合病で下痢はないが嘔吐がある場合、葛根加半夏湯を用いる。
・葛根加半夏湯の処方
葛根(四両) 麻黄(三両、節を除く) 甘草(二両、炙ったもの) 芍薬(二両) 桂枝(二両、皮を除く) 生姜(二両、切ったもの) 半夏(半升、洗ったもの) 大棗(十二枚、裂いたもの)
右の八つの材料を、水一斗で、まず葛根と麻黄を煮て、二升減らし、白い泡を取り除き、他の薬を加えて三升になるまで煮る。滓を除き、一升を温かくして服用する。覆って微かに汗をかくようにする。

太陽病と陽明病の合病

合病とはある病位から別の病位へ病が波及したものをいう。今回であれば、太陽病の提綱である「脈浮・頭項強痛而悪寒」に加えて、下痢や吐き気(陽明病)が合わさったものである。

似た概念として併病(へいびょう)があり、こちらは二つの病位が同時に病むことをいう。本条文を例に引けば、太陽病を病んでから陽明病へ波及するものが合病・太陽病と陽明病を同時に病むものが併病である。

葛根湯

葛根湯は桂枝加葛根湯に麻黄を加えたもので、それに半夏を加えたのが葛根加半夏湯である。どちらも桂枝湯を基本とする方剤である。ただし葛根それ自体はその治療対象が陽明にある。そのため、本条文のように太陽病を基本として陽明病に波及する病を治療できる。

葛根湯の病理

桂枝湯を基本とする葛根湯は表邪を発散させることがその基本的な効能である。本条文では邪気が太陽経から入り発散できないために、邪気が陽明の経絡に入り込む。李時珍は『本草綱目』の中で

麻黄は太陽経の薬であり、また肺経入る。葛根は陽明の経絡の薬であり、脾経に入る。二つの生薬はどちらも軽くて発散させる効果を持つが、その対象がことなる。

と述べており、桂枝湯のバリエーションである葛根湯が陽明経を治療対象とした薬であることがよくわかる。また太陽経と陽明経という二つの表で邪正闘争が起こるため、裏は不和となった場合は下痢が起こる。これについて劉渡舟は『中国傷寒論解説』の中で

胃腸の裏の不調和は主として表邪の鬱閉によるものであるから、治療にあたっては解表を行うことによって裏を調和すればよい。下痢の見られるものには葛根湯を使って解表し清陽を昇らせて下痢を止める。

と解説している。

まとめ

今回は、葛根湯・葛根加半夏湯の条文から表証に影響されて起こる下痢や吐き気を考察した。ここでは、太陽病と陽明病の合病のみの考察であったが、他の太陽病と少陽病・陽明病と少陽病においてもにた病理で下痢がみられることがある。興味のある方はぜひ調べてみてほしい。

今回の条文から分かるように教科書的には問診で下痢や吐き気を見た際に裏証で見立てることが多いが、表証が通じないために起こる下痢や吐き気があることも念頭においておきたい。

参考文献

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