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今回は食欲不振には二つのタイプがあること、また宿食の紹介をしていきます。
楊秀倫の食欲不振(後半)
第三日の早朝,余が書室の中で未だ起きず臥せっていると,外から何か云っているのが聞こえてきた:老婦人が堂中の掃除をしている。余(王士雄)は衣をかぶり起きてたずねると,おばあさんは久しく臥せっていたが起きて「親しく先生にお礼を申しにきたのです。」と言って、余の寝床へ入ってきてしばらく談笑した。早朝の膳が出てくると,病者は食を観て,自ら碗内に数粒を撮って咀嚼して
「どうして臭わないのだろう?」
と言った。それから飲食がどんどん進み,昔の如く元気になり,皆は不思議がった。余曰く:傷食や悪食は人の共に知る所だが,宿食が去れば食は自ずと進むのは老少みな同じである。今の医者は,老人は停食して消化ができないと思いただ中気を補うだけに止め自然消化を待っている。此れ等は道の乱れであるのに,反って世は金針と奉じているのは道理が分からない誤りである。余が淮安で名を揚げたのは,それからです。
王士雄《洄渓医案按·外感停食》より抜粋
解題
無事に王士雄の慧眼によって回復した患者さんですが、3日目の朝に回復した様子が描かれています。体調が回復することで重要な所見であった厭食(食べ物の匂いなどを嫌がること)が改善していく様子が見られます。
さてここでは食欲不振にもさまざまなタイプがあることを王士雄は指摘しています。現代の僕らにも実感としてあり、もっとも一般的な食欲不振、いわゆる虚証として考えられるようなものがまず一つ。そして今回の症例で王士雄が指摘したような宿食による消化不良が引き起こす食欲不振がもう一つあります。
宿食について
宿食は現代ではあまり使われず、東洋医学の古典でしばしば見られる用語の一つです。辞書によれば下記のような解説があります。
「宿」とは停滞の意味,「宿食」とは、食物が胃腸に停滞し、消化ができなくなって現れる病証を指す。(『金匱要略』腹満寒宿食病脈証治)症状としては、胸腕がつまって満悶する・飲食を嫌悪する・口中に酸腐臭がある・舌苔厚膩・脈滑などがみられる。多くは飲食が過量になり、胃の受納や脾の運化機能が失調することによって起こる。治法は消食導滞とし,処方は保和丸などを用いる。
『中医基本用語辞典』東洋学術出版
中医学で言えば、脾胃不和の弁証がそれに近いと考えられます。所見で「つまる・張ったような満ちた感じがしてつらい」と言った虚証では考えいにくい所見が見て取れることも特徴です。脈とお腹をみれるなら滑脈や舌苔厚膩など実証の所見があることがうかがい知れます。
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