『素問』には、東洋医学の治療原則がさまざま記されているが、陰陽応象大論によれば、病の場所(表裏の違い)によって治療法を変えることの重要性が説かれている。また傷寒論の元になったと言われる『素問』熱論にも、「その未だ三日に満たぬもの(病が浅いもの)は、汗をかかせる」とあり汗法が表証の重要な施術方針であることが示されている。
今回取り上げる43条や44条は、そういった施術方針の重要性を解きながら、それが守られなかった場合にどう対応すれば良いかという状況を描いたものである。傷寒論が単なる古典に終わらず現代でも読まれる理由がそこにあるのだろう。
原文
43条;太陽病、下之微喘者、表未解故也、桂枝加厚朴杏子湯主之。
〔桂枝加厚朴杏子湯方〕
桂枝(三両去皮)甘草(二両炙)生薑(三両切)芍藥(三両)大棗(十二枚擘)厚朴(二両炙去皮)杏仁(五十枚去皮尖)右七味、以水七升、微火煮取三升、去滓、温服一升、覆取微似汗。
44条;太陽病、外證未解、不可下也、下之為逆。欲解外者、宜桂枝湯。
意訳
43条;太陽病で、少し喘息気味なのは、まだ外感の邪気が解けていないからです。桂枝加厚朴杏子湯が主治薬です。
〔桂枝加厚朴杏子湯方〕
省略
44条;太陽病で、外証がまだ解けていないのに下剤を服用するのは良くありません。下剤を服用すると上逆を引き起こします。外証を解くには、桂枝湯が適しています。
表から肺へ
誤って下法をした場合、その後の展開には裏において虚実の展開があることを知られている。43条では下法によって病が表から肺へと内陥するが、まだ裏虚には至らない。そのため単なる喘息ではなく「下之微喘(下して少し喘息ぎみ)」という曖昧な表現がなされている。
そのため表証の治療薬である桂枝湯に厚朴と杏仁という平喘作用があり、肺に作用する生薬を追加している。44条はまさにこの総括的な条文であり、「下剤を服用すると上逆する」は43条における「下之微喘(下して少し喘息ぎみ)」を述べているのであろう。
ちなみに太陽病は汗法を使うことでその症状を改善させることができるが、誤って下させることを戒めている。表証に下法を用いるとさまざまな症状へ展開することは傷寒論に詳しい。
参考文献
- 『傷寒論』人民衛生出版
- 『方剤学』医歯薬出版株式会社
- 『中国傷寒論解説』東洋学術出版
- 『温病条弁解説』医師薬出版社
- 『傷寒雑病論』東洋学術出版