機能性ディスペプシア(FD)

疾患概要

数ヶ月続く食後の胃もたれや食事をしてすぐに感じる満腹感(早期飽満感)、みぞおちの痛み(心窩部痛)や焼けるような感覚(心窩部灼熱感)などが主な症状です。排便やおなら(放屁)などで改善しないなどの特徴があります。疫学では日本人の10人に1人が罹患しているとされていて非常に罹患者の多いお病気です。ストレスとの関連が指摘されており、QOL(生活レベル)の著しい低下を引き起きおこします。原因は不明。

原因が不明なため治療は心療内科による心理療法や生活指導、症状をおさえるお薬の服用などがあります。機能性ディスペプシアへの鍼灸治療も盛んで他の治療法と組み合わせることで症状の改善がはかれることが知られています。

症状と病態

症状

症状は大きく分けて、食後の胃もたれや膨満感などの運動機能異常とみぞおちの痛みや灼熱感などを訴える内臓知覚過敏の二種類に分けられます。運動機能異常の方は専門的に食後愁訴症候群(PDS)と呼ばれ、内臓知覚障害の方は心窩部痛症候群(EPS)と呼ばれます。両方発症することも少なくありませんが、片方のほうが治りやすい(予後が良い)ことが知られています。

一方で機能性ディスペプシアには胸焼けや呑酸(酸っぱいものがこみ上げる感覚)はないため、こちらがある場合は胃食道逆流症を疑う。

病態

内視鏡検査や血液検査などで症状の原因になるような異常がみつからないことが特徴です。ストレスなどによって自律神経系や内分泌系の調節がうまく行かず、胃の症状が現れると考えられています。ピロリ菌の影響があるタイプもあるが6〜12ヶ月治療してみないと分からないのが現状です。

腸脳相関

現在、機能性ディスペプシアで注目されているのが腸脳相関です。これは脳と腸が自律神経やホルモンを介して相互に影響を与え合うシステムのことです。機能性ディスペプシアでは腸脳相関が深く関与していると言われています。

診断基準

世界的にはRomeⅣ基準に基づいて診断されていますが、日本は他国に比べて病院へのアクセスが容易なこと・実際の患者さんが早期に受診することが多いことなどを理由に以下のような別の診断基準が設けられています。他の大きなお病気がないことが確認できた場合に診断が可能なお病気である点が注意点です。

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014より抜粋

症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に「心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状」を呈する疾患

診断は医師のみに認められた独占行為です。こちらの記事はあくまで参考ですのでご自身で判断せず近くの消化器内科にて診断してもらってください。

治療

鍼灸治療

機能性ディスペプシアは罹患率の高い疾患にも関わらず、治療法が確立していないことが問題となっています。一般的には薬物治療も使われますが、症状の寛解にとどまることも多く薬の副作用などから鍼灸治療の有効性が注目されています。

NIH(アメリカ国立衛生研究所)の報告などによると胃の運動性、胃の収容、精神状態、胃腸ホルモン、中枢および自律神経機能の調節作用を通して、消化不良症状やQOLが改善したことが分かっています1
また最近の研究でも、鍼灸治療が薬物治療より治療成績が良かったとする(鍼治療9割、薬物治療8割)報告2腹部の膨満感に対して治療後も12週間効果が持続したという報告3などがあります。また東洋医学な面からも心身一如という考え方に基づいて、腸脳相関を整える作用があると考えられます。

薬物治療

薬物治療は初期治療として胃の運動や胃酸の分泌を抑制するお薬によって症状の経過を見ることが推奨されています。ただし、発症理由のわからない機能性ディスペプシアは単に胃の疾患だけなくさまざま要因が絡み合って起こることが知られています。そのため初期治療で改善しないことも多く、その場合は抗不安薬抗うつ薬が使われます。

心理療法

日本ではまだカウンセリングが一般的ではありませんが、ストレスが悪化原因として知られているため心理療法も有効です。具体的には認知行動療法催眠療法などが有効とされています。

養生

食生活の改善は他の治療と並行して最も大切な治療の一つです。暴飲暴食は機能性ディスペプシアを悪化させることが知られています。ただし、ストレス→暴飲暴食→ストレスという負のループに入っている方も少なくありません。その場合は、鍼灸施術や心理療法などと組み合わせることで負のループからの脱却が必要です。

また少し意外ですが喫煙も悪化要因として知られています。症状の緩和に向けて一時的にでも禁煙するのは、非常に良いでしょう。


参考文献

  1. Effects and mechanisms of acupuncture and electroacupuncture for functional dyspepsia: A systematic review ↩︎
  2. Electroacupuncture for functional dyspepsia and the influence on serum Ghrelin, CGRP and GLP-1 levels ↩︎
  3. Effect of Acupuncture for Postprandial Distress Syndrome. A Randomized Clinical Trial ↩︎